組上げ燈籠 江戸の風呂屋
葛飾北斎の図録を古本屋で手に入れました。
これは1993年に世界中の美術館・博物館から北斎の作品を500点以上借り出して行われた展示会の公式図録です。
その中に下のようなぺーじが有り、目録によると、新板組み上げ灯篭 湯屋新店の図 大判五枚揃・葛飾北斎美術館 と書かれています。
大判は大体39cmx26cm位でA3サイズより少し小さい位です。
右の一番上の部分を拡大したのが下の図で、右側に『組上おもての図』左に『組上内の図』と書かれています。これは切り取って貼り合わせると、風呂屋(江戸では湯屋といいました)が組上がる ペーパークラフトだったのです。

そこで各ページをA4に印刷して見ると、通し番号一番が下のもので、赤の点線で囲んだ所が湯屋の正面、右側が板の間等、上にひさしが有り、切抜く場所には風呂場の中に居る人物と、桶・脱いだ着物などがびっしり書き込まれています。
全五枚の中に、正面や屋根の様な大きな物から桶・着物など小物を含めて、約70点のパーツと30人の人物がすきま無く書き込まれ、所々に簡単な注記があります。通し番号は壱〜五がページ毎に振られています。

組上げてみると こんなものが出来ました。右が男湯 左が女湯で、二階が休み場になっています。左上の『組上げ表の図』と比べて見て下さい。
  良く見ると、外の通行人が大きく、風呂中の人物は少し小さく、二階の人が小さく書かれています。また一階・二階の床・天井は手前が広く、奥が小さくなっています。これは西洋画の影響をうけた遠近法(浮絵)の手法と思われます。



湯屋外の通行人達は、 一まとめに、『この人形 外小間よせに見合わせ貼る』(外に適当に配置する)と書かれていますが、一番左で、よだれを垂らさんばかりに覗き込んでいる田舎からの旅人二人組には『女湯 土間寄せへ付ける』との指示が有ります。
この組上げは内外が分離できます



内部は『組上げ内の図』の通りです 浴槽はこの奥で、湯がさめるのを防ぐため 低く囲われていて、入り口を『ザクロ口』と言います。女湯の方に手足が見えてる所です。
決まりなどの張り紙 二階への階段 仙女香(おしろい)などの広告 衣装棚などが見えます。着替え場・洗い場には仕切りがなく、すべて見渡せるようになっています。



 江戸時代の生活の大百科事典『近世風俗史(別名守貞謾稿)』の中に江戸の湯屋の間取り図があります。それを参考に、湯屋新店の間取り図を作るとこの様になります。
入口の土間から、脱衣場の板の間・流し場(洗い場)まで戸も障子も全く無く 素通しになっていて、その先が、浴槽に入るための、低いザクロ口になります。
左は鍬形寫ヨの近世職人尽絵詞の中の絵で、この感じが良くわかります。
湯屋の値段・決まりなどの注意書きも貼ってあります。



 湯屋の二階は髪結い床(床屋)と共に、男達の溜り場です。台の前に居るのが二階の番頭で茶や菓子を安い値段で提供していました。
金が無いのに、暇だった勤番侍にとっても大事な暇つぶし場所でした。
二階の衣類棚は貸し切りで、近所の商家などが契約していました。衣類を盗まれたりすることが無く、安心して入浴出来ます。扉に借主の紋などの印がしてあります。



新板組上げ灯篭 湯屋新店の図 北斎画

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