文政十二(1829)年十一月京都のある荒寺に二十人ばかりの文人が集まり、『百物語』が行われました。
怪談ではなく、妖怪変化にちなんだ狂歌を、奥の本堂で一首書いては、百本の火の付いた燈心から一本ずつ消してゆきます。
 最後の一本が消えて闇に成ると、現われる妖怪変化を見よう
と言う会です。

会主は菊延屋、絵は寸美丸(青洋)と虎岳の二名。 先ずこの寺で唯一荒れていない居間に全員が集合したところです。
 ここで狂歌を考え、一人ずつ順番に真っ暗な廊下を歩いて、本殿に向かいます。

 真っ暗な廊下を歩いて本殿に向かいます。荒れ果てた本殿には、文机と、百本の燈心の灯った灯油皿が置いてあり、そばには頭骸骨まで かざってあります。文机の上の巻紙に、狂歌を書き 燈心を一本引いて消し、元の部屋に戻ります。
 会則は、下の様なものです。
 1 歌数は全部で百首。多く詠んだ人も、一度に一首だけしるし、席を守り順に行うべき事
 2 南の殿に燈台を設け、大きなる皿に燈心百筋を入れ、一首をしるし一筋を減すべき事
 3 文台ひとつ燈の左に置く。硯・料紙かたはらに、鉦一つおく。歌をしるし終て後、鉦を打つべき事
 4 居間より南の殿へ通う道に、燈火を置くべからず。物の陰に隠れて、人をおどし、怪しきかたちなど作りおく事、禁制たるべき事
 5 居間にて雑談高声すべからず。又禁酒たるべき事
 6 百首にあたりたる人は、燈を消し果てて後、障子・襖を突きゆるがし『化物殿に見参申そうよ』 と言って踊るべき事
 7 妖怪は暁にいたりて隠れるの理なれば 寅の刻(4時頃)には散会し 残りの披露は後日なるべき事
 この七ヶ条の趣、堅く守るべし。もし違背の人は、酒一斗 連衆に差出さるべきもの也
  月 日 鹿都部 左衛門尉

 小袖の手 座敷わらし 酒買い小僧
 ◎小袖の手や燈台鬼は、使われずに、長い間放置された道具類に 霊力が宿ったものです。
 ◎切禿はおかっぱ頭のことで、座敷わらしです。古い民家や寺に住み着いています。
 ◎大座頭は文字通りで、大頭の盲僧
 ◎狸は江戸時代、町中にも多く住み、暗い夜など、狸の×× 八畳敷の腹鼓の音を聞かせました
 ◎酒買い小僧。暗い夜道を歩いていると、前方にトックリを持ち、酒でも買いに行く様な小僧が歩いています。暗いのに妙にはっきり見えるのが、不思議です。

 破れ車 なめ女 三つ目 一つ目
 ◎この破れ車は、霊力の宿った古物と言うより、源氏物語の六条の御息所のイメージです。
 ◎お客を喜ばせて高い金を払わせ、送り出す後ろからぺロりと長い舌を出して舐める妖怪がなめ女です。今でも居そうです。
 ◎三つ目・一つ目は文字通りの古典的化物。


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 天狗 雪女 毛女郎

 ◎天狗は種類が多く、上は恨みを持って亡くなった崇徳上皇や、修験道の崇める太郎坊などから、からす天狗までいろいろ。
 ◎雪女は雪の夜に『一晩泊めて下さい』と訪れます。溶けてしまうので、入浴を勧めてはいけません。
 ◎江戸時代の女性にとって髪の毛は大事なチャームポイント。後髪の見事さにひかれ、思わず声を掛けると、髪の毛以外何もなかった言うのが毛女郎です。

金の精 猫又 火消し婆

 ◎小判を蔵にしまい込んでいると、金の精となって暴れ、活躍の場を求めます。タンス預金ではなく、投資をしなさいと言う事です。
 ◎常夜燈が消えているのは火の番の責任ではなく、火消しババの仕業と言われています。
 ◎年をとった猫が化けると言う事は、今でも信じる人が居る様です。江戸時代の猫は年を取ると、ほとんどがお婆さんに取り付きます。

幽霊船

◎ 舟幽霊は壇ノ浦で滅んだ平家の亡霊
源義経が、頼朝と不和になり、九州で再起しようとしますが、海路を平家の舟幽霊に妨げられ、結局奥州藤原氏の元に落ちて行くと言うのが、謡曲・歌舞伎のストーリーです。



 そうこうしているうちに、夜が明け、鶏が時を作ると異界の者たちの時間は終わります。これで、百鬼夜興の会も終わります。

現代に生きる妖怪達

 ◎文明開化以前は、夜は暗く、まともな人は夜明けと共に起きて働き、日没と共に、睡りに付く生活でした。
 夜は夜の世界の住人達を想像し、その生活に思いを馳せていました。
 この様な異界の住人達のパレードを百鬼夜行と言い大勢の画家が描いています。
 狂歌百鬼夜興の名はこれにちなんでいます。これらは、明治以降、電燈・蛍光灯・LEDと次々開発される照明に追われ、消滅して行きました。



 しかし本当に消えたのでしょうか?
 今、映画・テレビ・ネットなどに住みつき、世界中に勢力を広げている怪しい者たちは、彼らの子孫かも知れません。

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